暫くの間、私と少女は唇を重ねていた。優しく、そっと、蝶の羽に触れるように、私はキスをした。すると唇に生暖かいものが触れる。それは、ぺろり、ぺろり、と私の唇を舐め始めた。子猫のようにぺろぺろと、私の唇を舐める少女。
可愛い。
とても可愛い。
でもキスとはちょっと違うような……?
少しの間、少女が舐めるままにしていたが、我慢出来なくなり、私は少女の口内へと舌をさし入れた。
私が薄目を開けて少女を見ていると、彼女は驚いたように目を見開き、またゆっくりと閉じた。
少女の長い睫が目の前に見える。私は彼女の口内をゆっくりと楽しんだ。舌で彼女の歯茎をなぞる。彼女の歯茎は所々柔らかかった。歯肉炎に罹っているのだろう。歯医者にも連れていかなければならないなと思った。硬い歯の感触を楽しむ。歯は欠けているところもある。食べたちくわぶのかすが残っている。明日の朝はもっと丁寧に歯を磨かさなければならない。
歯は彼女の人生そのものだった。虫歯が出来ているようなへこみに触れたら、少女がびくっと唇を離した。
「…………」
少女はちょっと辛そうな顔をする。あまり感情の出ない彼女がそういう顔をするとは、余程痛いのだろう。
「……歯医者にも行こうね」
そう私が言うと、少女はゆっくり左右に首を振った。
「医者……高いからいけないってママが言ってた」
「保険証……なんてないか。お金が掛かっても治してあげるからね」
「…………」
少女は再び、ちゅっ、ちゅっ、と私の唇にキスをする。小鳥のようだ。きっと嬉しさを表現しているのだろう。
「でも……まつり、むりしないで」
「別に無理してない。保険証は発行出来るよう役所に掛け合ってみようね」
少女は小さく頷いた。
私は再び少女の口内に舌を入れる。彼女の舌に触れ、絡ませる。少女も反応して動かす。まるでダンスのようだ。彼女の舌は言葉を話す時より饒舌だった。
■ 続く