……眠れなかった。
いや、正確には三時間ぐらいしか眠れなかった。仕事が終わった直後だからかな? とも思う。
もやもやとした性欲。私は思春期の子供か! と情けなくなる。
「……ん……」
隣から少女の囁くような声が聞こえる。寝返りを打ったようだ。
そう、ほぼ一晩、私は少女を観察していた。少女に背を向けながら、彼女の寝息、動き、たまに触れる手や足に一喜一憂し、その度に心が高鳴るのだった。
今、何時だろう……六時か。先程時計を見た時は四時だったから、二時間も私は少女に背を向けながら、彼女の動きを感じていたことになる。
少女はベッドが気に入ったらしく、気持ち良さそうに寝ている。
そろそろ朝食の準備をした方がいいだろうか。だが少女を起こしてしまうかもしれない。私は葛藤しながら身動きせず、ベッドの中にいた。
そっと上向きに体を横たえ、ちらりと少女を横目で見る。すると彼女の暗い瞳がぱちりと開いた。
「!」
可愛い。
私は目が合い、驚いてしまう。慌てて少女の方へ体の向きを変え、おはよう、と言った。
「…………おはよう……ま……つり」
少女は一瞬、私の名前を忘れていたようだ。そしてここはどこだ? と辺りを見渡す。
「私の家だよ、ゆきちゃん」
「……よかった……まつりと一緒」
「そう、私と一緒。もう少し寝ていれば? 朝ご飯を作ってくるよ」
少女は少し嬉しそうにこくりと頷いた。そして蒲団を肩までかける。
「まつり……ごはんつくってくるだけ? いなくならない?」
「いなくならないし、追い出しもしないよ。温かいミルクとパンにしようね。あとは……カマンベールチーズとみかん」
私は冷蔵庫にあるものを適当に並べた。駄目だダメだ。もっときちんと朝食を作ってあげなければ。そういえば冷蔵庫の卵入れの場所が物置のようになっているのを思い出した。……卵も買ってこよう。
「ゆきちゃんは食パンにバターを塗る派? マーガリンを塗る派?」
「……? バターロール?」
「うーん、あまり食パンをたべなかった派かな。じゃあバターにしようか。……胃に重いかな。マーガリンの方がいいかしら」
「……バターロール?」
「……バターのほうが馴染みがあるのかな? じゃあバターを塗るね」
私はベッドから起き上がり、部屋着に着替えた。

■ 続く