私は少女を連れて歌舞伎町にあるBE-WAVEへと向かった。この美容室の利点は年中無休で朝の五時まで開いているところだ。月に一度、休日の前日。例え仕事帰りが遅くなっても、出張の帰りでも開いているのがいい。
伊勢丹ビューティーパークに入っている資生堂ビューティーサルーンは家の近くにあるが、高いし、母に会ったら少女について何か言われそうだ。
BE-WAVEに着いた私達は店員と少女の髪について話し合った。
「そうですねー、髪の毛が長いですからそれを生かした内巻きシャギースタイルとかどうですかね」
「シャギースタイルってどんな風になるのかな」
「毛先に行くほど細く鋭くなっていきます。毛先が不揃いになって軽くなりますよ」
「ゆきちゃんはそれでいい?」
「…………それでいい」
少女は無表情だ。よく分かってないような返答。私は少し悩んでから、それでお願いします、と言った。
「じゃあこちらに。シャンプーしますね」
「頭皮クレンジングも付けてください」
「はい、分かりました」
少女が恐るおそるシャンプー台前の椅子に座る。
「シャンプーケープを着けますね」
「ひっ!」
首の周りにケープを掛けられると、少女が息を詰まらせる。
「大丈夫、大丈夫。怖くしないよ」
店員はにこっと少女に笑いかける。
少女は暗く深い瞳で店員を見た。
「お洋服が濡れないようにケープをかけるだけだからね。ちょっと緩くしておこうね」
そう言いながら椅子を上げ、背もたれを倒す。
「これから頭皮ケアとシャンプーするからね。怖くないよ」
「シャンプー、昨日、した」
「髪の毛は毎日洗おうね。すぐ終わるよ」
店員は優しく少女に語りかける。
私は少女の側に立ち、手を握った。
少女は少し安心したようで、素直にタオルを顔にかけて貰っていた。
店員は素早く髪の毛の洗浄をした。私がやってもらう時よりも早い気がする。
ささっとタオルで髪の毛を包み込み、シャンプーケープを外し、こちらへどうぞ、と鏡の前の椅子へと少女を促した。
少女は少しぼーっとした表情で、素直に椅子へと座る。
すると再びケープが現れた。少女は少し辛そうな表情をした。
「カッティングケープを巻くけど、大丈夫だからね。ここに腕を通して」
少女は言われるままに腕を通す。表情は暗いままだ。
「じゃあカットに入りますね~。大丈夫。リラックス、リラックス」
鏡に映る少女の瞳が私を見る。私はにこっと笑った。すると少女は安心したのか、肩の力を抜いた。
「では毛先を5センチぐらい切ってから、シャギーを入れますね」
店員は髪の毛を切り終わると、さっと髪を湯で流し、最後にブローをした。
「はい、終わり」
少女の長い髪の毛はシャギーを入れたことで少し軽くなり、内巻きがさらに可愛らしさを引き立てた。
「…………」
少女は鏡の中の自分をじっと見つめる。
「ど、どうかな。こんな感じの髪型で良かった?」
私は恐るおそる聞く。
「……よかった」
「そう」
「可愛いですよ~」
店員がにこっと笑い、言った。
「カワイイ……カワイイ……」
少女は小さな声で繰り返す。
私は料金を払い、少女と一緒に店を出た。髪の毛を切っただけなのだが、少女の可愛らしさが際立った。
「さて……コートとか靴とか服はどこで買おうか。うーん、GAPにするか」
セクマイフレンドリーの店だし、という言葉を私は飲み込んだ。
同性とのキスに慣れている少女だが、セクシャルマイノリティーなのだろうか。バイセクシャル? もしかしたら性自認を自覚する前に性被害に遭っているのかもしれない。

■ 続く