私は少女の背中を優しく抱いた。細い傷付いた身体。
「ゆきちゃんはお母さんが亡くなるまで、お母さんと離れて暮らしたこと、ある?」
「……いつもいっしょ」
「そうか。じゃあ、お母さんが亡くなってから、いろんな人に会ったよね」
そう私が言うと、少女はこくりと頷いた。
「その中に……そうだなぁ、役所とか、警察とかに連れて行ってくれた人、いる?」
「やくしょにいってない。けいさつはガサいれしてくるところ? あそこはきらい」
「ガサ入れって、警察がお母さんの職場とかに来たの?」
「くるかもしれないって、いそいでにげたりした」
「そっか……警察は苦手かな。じゃあとりあえず区役所に行ってみようか。新宿区……うーん、練馬区かな。お母さんの恋人の家にはどのくらいいたの?」
「どのくらい……はるから……」
「半年ぐらいかな?」
「……はんとし……はんとし……」
「想像していたより短い期間ね。半年かぁ……ゆきちゃんは練馬区役所に行ったことはある?」
「ねりまくやくしょ?」
「住所を変更したり、本籍地を移したり……」
「じゅうしょ……ほんせきち?」
「そういえばゆきちゃんはどうして歌舞伎町に歩いてきたの?」
「ママといたまちだから……ねりまは、おじさんち」
「そうか……うーん、住所が練馬区にあるか新宿区にあるかは重要なんだけど……とりあえず新宿区役所に行ってみるか」
「しんじゅくくやくしょにいってみる」
新宿区役所へ行くのは少女も納得したようだ。
「ゆきちゃんの前に来ていたお洋服、リュックに入れておくから、持っていて。あと……ここの住所と私の名前。カードに書いて渡しておくね」
私は住所、名前、電話番号を記したカードを少女に手渡した。
「もし迷子になったり、何かあったらここへ戻ってくるんだよ。いつでもここにいるから」
少女はカードを見て、こくりと頷いた。
「さぁ、区役所でゆきちゃんの住所を調べてみよう」
「しらべてみよう」
少女はコートを着て靴を履き、後から付いてきた。

■続く