私達は個室に通された。少女は怯えきっていた。正直、私も緊張していた。ここでの話し合いの末、私の手から少女は連れ去られてしまうかもしれない。
連れ去り? おかしな話だ、と私は自傷気味に心の中で笑った。街中から少女を連れ去ってきたのは、他でもない私自身ではないか。
「まつり……」
少女は不安そうに私の腕に掴まる。私はぎゅっと少女の腕を脇に挟んだ。
「大丈夫。落ち着いて……大丈夫」
まるで自分に言い聞かせているかのように、私は少女に囁いた。
「彼女……諸井ゆきちゃんはとても警察に不信感を持っています。ですから信頼感を作っていけるようにお話しください」
私がそう言うと、黒スーツの女性警官は頷いた。
「そうですね……ゆきさんは未成年で……とても幼く、私は虐待された児童と認識しています。そして恐らく、お母さんも同じような虐待された児童だったのでしょう。住民票も保険証もなく、一生懸命生きて、ゆきさんを育ててきた。でも亡くなってしまったんですね」
警察官が少女を見る。少女はじっとし、暫くしてから頷いた。
「ママは……みんなのアイドルだった……きれいなしゃしんやどうがをとって、サイトにあげる。そうするとみんながきれいだ、めがみさまだってほめてくれるの……ママはとてもきれいだった……」
少女は漆黒の瞳をさらに暗くし、囁くような小さな声で言った。
「ママが……しゃしんをとるよっていったら、ふくを……ぬいで……しゃしんをとるの。ママといっしょに……ひとりのときもあった。そういうときはさみしかった。ママとふたりのおもいで。しゃしんはたいせつなおもいで……」
「そうなの……ママは優しかった?」
「うん、やさしかった……いつもまもってくれた……でもおじさんからいじわるされるときはまもってくれない。おばさんからおこられるときは、あっちにいきなさいってまもってくれた」
「おじさん? おじさんと住んでたの?」
「ママがしぬはんとしまえから、おじさんのいえとおみせをいったりきたりした。おじさんとおばさんとゆうきがひとへやにすんでて、おばさんはせまいせまいっておこるの。おじさんはママにおばさんとわかれるから、いっしょにくらそうっていってた……いやだった」
少女がそう言うと、うんうんと警察官は頷いた。
「嫌だったね。痛いことはされた?」
「うん、おじさんはね、たたいたり、はだかになって……なって……ちんちんをいれるの……どうがにとって……おかねになるんだぞって……おまえたちのせいかつひなんだぞって……いたかった……」
「うんうん、いたかったね……おじさんとはどこに住んでいたのかな」
「ねりま」
「練馬ね。じゃあちょっと車で行ってみようか」
「いや」
「え?」
「おじさん、おばさん、たたく。また……またいたいことされる」
「うん。大丈夫。ゆきさんに痛いことしないように私が守るからね」
「けいさつが……まもる?」
少女は暗い、とても真っ黒な不信感を抱いた瞳で警察官を見た。
■続く
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